イベント案内

高橋森彦 Morihiko Takahashi (舞踊評論家)

ハイブリッドな進化を遂げるバレリーナ─ 上野 水香

 いまや世界各地で活躍する日本人ダンサーは珍しくない。だが、日本を拠点に定め国際的にも活躍する踊り手となると、そうはいない。数少ない例外が上野水香だ。近年、ドイツ、アメリカ、チリ、台湾等を代表する歌劇場で催される著名バレエ・ガラに招かれ、海外のスターと組んで踊ることも少なくない。まずもって日本人離れした抜群のプロポーションと高い運動神経の生むスケール感が魅力的。そのうえ近年は演技力も増し、ハイブリッドな進化を遂げている。昨秋踊ったマカロワ版『ラ・バヤデール』ニキヤ役では、伝説の名花ナタリア・マカロワ直々の指導を受け、舞姫の愛の喜びや悲壮感を巧まず表現。続くラコット版『ラ・シルフィード』のシルフ役では、清新な解釈を打ち出した。上野が踊ると、単なる妖精の物語でなく、現代を生きる観客の心の内奥を抉る痛切な愛のドラマとして胸に迫る。『ジゼル』でも、卓越した技量と深まった表現力で観るものを魅了するに違いない。

あらゆるレパートリーを踊りこなす大ベテラン─ 高岸 直樹

 東京バレエ団の顔。高岸直樹をひと言で評すればそうなる。今年7月、ミラノ・スカラ座での『ザ・カブキ』上演をもって東京バレエ団の海外公演数は通算700回を記録した。その記念すべき公演で主役の由良之助役を踊ったのも高岸である。「忠臣蔵」をテーマにしたベジャールの名作の主人公・剛健な日本男児を四半世紀近くも演じてきた。古典からベジャール、ノイマイヤー作品まであらゆるレパートリーの主役級を、堂々たる偉丈夫ならではの力強い踊りを持ち味に踊りこなす。大ベテランながら近年もマカロワ版『ラ・バヤデール』ソロル、『オネーギン』タイトル・ロールにおいて、ときに情熱的、ときにニヒルな主人公の内面を余すことなく演じて、芸域の広さを示している。『ジゼル』のアルブレヒト役では、今回組む上野水香と一昨年共演。ジゼルを喪い真実の愛を知ってからのエモーショナルな演技が印象に残った。今回も熱のこもった舞台を生むこと請け合いである。



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