人情噺文七元結 (にんじょうばなしぶんしちもっとい)
本所割下水(わりげすい)に住む左官の長兵衛は腕の立つ職人。しかし、酒と博打にはまり、今ではすっかり落ちぶれ、女房のお兼とは喧嘩ばかりの日々が続いていた。
ある日、両親の苦境を見かねた娘のお久は、自分が吉原に身を売って借金を返す決意をし、家を出る。この孝行心に胸をうたれた吉原の妓楼・角海老(かどえび)の女房お駒は長兵衛を呼び出すと、心根を入れ替えるよう諭(さと)し、五十両の金を貸し与えた。娘の思いとお駒の情けに感じ入った長兵衛は、男泣き。一日も早く借金を返済して、お久を迎えに来ると約束した。
孝行娘の想いにすっかり目が覚めた長兵衛は、大金を懐に家路に着くが、途中、大川端で身投げをしようとしている若い男を見かける。男は和泉屋の手代文七。訳を聞いてみれば、店の売上金を無くした申し訳なさから命を絶とうとしていたというのだ。この窮状を気の毒に思った長兵衛は、お駒から借りた五十両を渡してしまう。その話を聞いた女房のお兼は信じず、また夫婦喧嘩となる。するとそこへ・・・
三遊亭円朝の人情噺を劇化した、笑いあり涙あり、江戸っ子の人情味溢れる世話物の名作にご期待ください。
襲名披露口上 (しゅうめいひろうこうじょう)
裃姿(かみしもすがた)の俳優が舞台に並び、八代目中村芝翫、四代目中村橋之助、
三代目中村福之助の襲名披露のご挨拶を皆様に申し上げる華やかな一幕です。
棒しばり (ぼうしばり)
無類の酒好きである次郎冠者と太郎冠者は、主人の曽根松兵衛が留守になる度、こっそりと酒を盗み飲んでいた。これに手を焼いた松兵衛は、ある日、一計を案じ、次郎冠者を棒に縛りつけ、太郎冠者の後ろ手を縛って外出。両手をふさがれてしまった二人だったが、苦心の末、何とか酒にありつき、さらには興に乗って、ほろ酔い気分で踊り出すのだが・・・
可笑し味のなかにも、「松羽目物」の品格を漂わせる人気舞踊をご堪能ください。
中村芝翫 なかむら・しかん
八代目 成駒屋 昭和40年8月31日生まれ。七世中村芝翫の次男。昭和45年5月国立劇場『柳影澤蛍火』の吉松君で本名で初舞台。昭和55年4月歌舞伎座『沓手鳥孤城落月(ほととぎすこじょうのらくげつ)』の裸武者石川銀八ほかで三代目中村橋之助を襲名。平成28年10・11月歌舞伎座『熊谷陣屋』の熊谷直実ほかで八代目中村芝翫を襲名。名女方で知られた父に対して、四代目芝翫以来の「立役の芝翫」として、一層の飛躍が期待されている。
中村橋之助 なかむら・はしのすけ
四代目 成駒屋 平成7年12月26日生まれ。中村芝翫の長男。祖父は七世中村芝翫。平成12年9月歌舞伎座『京鹿子娘道成寺』の所化延念坊と『菊晴勢若駒(きくびよりきおいのわかこま)』の春駒の童で、初代中村国生を名のり初舞台。平成28年10・11月歌舞伎座『熊谷陣屋』の堤軍次ほかで、四代目中村橋之助を襲名。二枚目役のほか、勇壮な荒事や舞踊の大役にも挑戦し存在感を発揮している。
中村福之助 なかむら・ふくのすけ
三代目 成駒屋 平成9年11月13日生まれ。中村芝翫の次男。祖父は七世中村芝翫。平成12年9月歌舞伎座『京鹿子娘道成寺』の所化喜念坊と『菊晴勢若駒(きくびよりきおいのわかこま)』の春駒の童で、初代中村宗生を名のり初舞台。平成28年10・11月歌舞伎座『一谷嫩軍記』熊谷陣屋の伊勢三郎ほかで三代目中村福之助を襲名。大役に挑む機会も増え、父の薫陶のもと着実に成果をあげている。
中村梅玉 なかむら・ばいぎょく
四代目 高砂屋 昭和21年8月2日生まれ。義経などの貴公子役をはじめ二枚目を得意とする立役。六世中村歌右衛門の養子となり、昭和31年1月歌舞伎座『蜘蛛の拍子舞』の福才で二代目加賀屋福之助を名のり初舞台。昭和42年4・5月歌舞伎座『絵本太功記』の十次郎と『吉野川』の久我之助ほかで八代目中村福助を襲名。平成4年4月歌舞伎座『金閣寺』の此下東吉と『伊勢音頭』の福岡貢で四代目中村梅玉を襲名。
片岡秀太郎 かたおか・ひでたろう
二代目 松嶋屋 昭和16年9月13日生まれ。女方の重鎮で上方の情緒と色気のある美しさに定評があり、『伊勢越道中双六 沼津』のお米や『封印切』の梅川が当たり役。十三世片岡仁左衛門の次男で、父の相手役も数多く勤めてきた。“つっころばし”のような和事系の立役でも後輩に手本を示す。昭和21年10月南座『吉田屋』の禿で本名で初舞台。昭和31年3月大阪歌舞伎座『河内山』の浪路で二代目片岡秀太郎を襲名。
中村吉之丞 なかむら・きちのじょう
三代目 播磨屋 昭和42年3月31日生まれ。敵役からおかしみのある役柄まで幅広くこなす立役。昭和56年4月中村吉右衛門の部屋子となり、歌舞伎座『元禄忠臣蔵』吉千代ほかで中村吉男を名のる。平成6年4月三代目中村吉之助と改め歌舞伎座『勧進帳』『熊谷陣屋』の四天王で名題昇進。平成7年9月二代目中村吉之丞の芸養子となる。平成28年9月歌舞伎座『一條大蔵譚』の八剣勘解由ほかで三代目中村吉之丞を襲名し幹部昇進。
中村梅花 なかむら・ばいか
四代目 京扇屋
昭和25年9月25日生まれ。昭和49年国立劇場第二期歌舞伎俳優研修修了。
4月国立劇場『妹背山婦女庭訓』の腰元ほかで本名で初舞台。昭和50年4月七世中村芝翫に入門し、中村芝喜松を名のる。平成3年4月歌舞伎座『野崎村』下女およしほかで名題昇進。成駒屋一門のベテラン女方として、時代物、世話物問わず幅広い芸風で活躍、平成28年10月歌舞伎座『女暫』の局唐糸ほかで四代目中村梅花を襲名し幹部昇進。